LOVE GIVES LIFE

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BOYHOOD 「6才のボクが、大人になるまで。」

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 久々のブログ更新。BOYHOOD (邦題:6才のボクが、大人になるまで。)を鑑賞。

もうなんだか、ものすんごく、いろんな意味で衝撃を受けたのでご紹介。

 

<あらすじ>

 父メイソン・シニア(イーサン・ホーク)と母オリヴィア(パトリシア・アークエット)の離婚後、姉サマンサ(ローレライ・リンクレイター)とともに母の元で暮らすメイソンJr.(エラー・コルトレーン)は6歳。

 ある日、オリヴィアは祖母が住むヒューストンに引っ越すと言い出す。仲の良い友人に何の別れも告げられずに旅立つことになってしまうメイソンJr.とサマンサ。ヒューストンに移ると、母やは大学に通い、新たな何かに挑戦する様子。

 アラスカに旅に出ていた父が戻り、メイソンJr.たちの引越し先に定期的にやってきて子供をボーリングに連れて行ったりと、楽しいひと時を過ごす。やがて父、母ともにそれぞれの恋人と再婚。メイソンJr.とサマンサも思春期へと突入し... (参考:6才のボクが、大人になるまで。 - Wikipedia )                               

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◇これはもはや ” 奇跡 ” の映画

 上映前から話題となっていた本作。なんといっても撮影方法がかなり特殊。

監督のリチャード・リンクレイターが、当時6才だった少年エラー・コルトレーンを2002年の夏から2013年の10月までの12年間に渡り、18歳までの彼の成長に合わせて脚本を執筆し撮影した。

 

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 (左上から6歳、7歳、8歳...とメイソンJr.役のエラー・コルトレーンの成長の様子)

 

 カリフォルニア州の法律では、ビジネスにおいて7年以上の契約を結ぶことは違法とされており、当時監督とキャストの間には契約書は存在しなかった。「ボク(またはワタシ)、辞めます」なんていうキャストが出てきたら、制作白紙に戻っていたかもしれないほどリスキーなプロジェクトだったはず。しかし、そんな心配をよそに12年間、主要キャストの誰一人欠けることなく撮影は行われた。

 キャスト・スタッフ、撮影方法だけでなく、本作は、2014年のあらゆる賞レースを席巻した。近年稀に見るほどの高評価で、米ローリング・ストーン誌が選ぶ2014年の映画ベスト10では見事1位を獲得。主人公の母親役だったパトリシア・アークエットは米英アカデミー賞助演女優賞を受賞。さらに作品としてもゴールデン・グローブ賞3冠、その他の映画賞も数え切れないほど受賞している。

 

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 監督リンクレイター自身が「これまでこんなことは一度も実現したことがなかったし、今後も二度とないだろう」と述べいているように、まさに本作は奇跡の映画といっても過言ではない。

 

◇テクノロジー、音楽、政治、サブカルチャーからみる時間経過

 なんといってもこの作品、メイソンが6歳から18歳になるまでの間、メイソンが今現在幾つなのか、テロップなりセリフなどでの説明は殆どない。しかし、観ている側は時間経過をキャストそれぞれの容姿の変化以外にも判断ができる。なぜなら、メイソンが遊ぶゲームボーイがX BOXに変化したり、愛読書ハリーポッターは秘密の部屋から最新巻へ(劇中ではハリー・ポッターと謎のプリンスが新巻/2005年)、学校でいじるapple製品は初期のスケルトンタイプのデスクトップ、父(イーサン・ホーク)が熱弁する政治論はブッシュ政権、イラク戦争からオバマ政権へ転換...など、時代を彩る要素たちがシーンの一つ一つに散りばめられているから。こういった部分を気にして見てみても、「あー、懐かしい!」と思えるものが出てくるのが面白い。

 

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 劇中歌も時代に合った曲たち。さすがリンクレイター、ただの流行歌を使用しないので12年経った今でも古臭く邪魔にならずに使用している。コールドプレイ、キングスオブレオン、ヴァンパイウィークエンド、シェリル・クロウ、フェニックス、ブリトニー・スピアーズから始まり、終盤ではリアーナ、ガガ様などが登場。時代に沿ったリンクレイターならではの選曲が、物語の時間経過を判断するもう一つのいいスパイスになっている。

 


Best Part of BOYHOOD Movie Lorelei Linklater ...

※サマンサのブリトニーが超絶キュート&ファニーなので必見。笑

 

◇主要キャストから見る自然な時間経過

 主要キャストである父役のイーサン・ホーク、母役のパトリシア・アークエットも主人公であるエラーと同じく12年間の撮影に挑んでいる。撮影当初の若々しい彼らも、物語の終盤には立派な中年の男女に。笑

 

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 パトリシアは中年の母親らしいしっかりとした体つきになり、イーサン・ホークは白髪混じりでシワも目立ち始める。特別な特殊メイクや演出を行わずに12年という歳月がもたらキャスト一人一人の自然な加齢が作品自体により説得力をもたせ、物語に深みを与えている。

 

◇もはやドキュメンタリー?!

 この作品、とにかく過剰な演出や説明的な部分が全くない。先にも述べたように観ている側がキャストのファッション、小道具、音楽、セリフから時間の経過を感じ取るしかない。取り立てて感動的な出来事やショッキングなできごとが起きるわけでもなく、1人の少年とその家族の12年間を淡々と追ったドキュメンタリーのように物語は進んでいく。

 

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◇年齢の積み重ねは、瞬間の積み重ね

 ある少年の12年間の歳月を3時間弱という時間の中にまるで一瞬かのように詰め込んでいる本作はまさに「年齢の積み重ねは、瞬間の積み重ね」であるということを教えてくれる。

 物語の序盤、メイソン達が祖母の家へ引っ越しをすることになり、車に乗り込み向かう途中、近所の少年がメイソンを見送ろうと自転車を走らせこちらへやってくる。しかしこのシーンで少年の顔は草むらに被ってはっきりと確認できない。

 

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 メイソンが度々家の前で一緒に遊んでいたこの少年の顔は終始、観ている側の私たちはハッキリ確認することができずに、とうとう最後の別れを迎えてしまう。

 

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 私自身、同じような経験がある。幼少期に住んでいたマンションのどこで、どんな遊びをしたかは覚えているし、近所の子供達の姿形はうっすら脳裏に浮かぶのに、相手の顔がどんなだったかまでハッキリと思い出せない。ややもすれば名前すら覚えていない。引っ越してしまってからは寂しいと感じつつも、その地域に戻ることもなく、新しい土地で友人ができた。主人公も物語の中で、成長していくとともに周囲の人間たちの様子も変化していく。とりわけ印象的なエピソードがない限り、ある特定の人間は次のチャプターが始まる頃にはすっかり過去の人となり、巻き戻さない限り思い出すこともなく、あっけなく出番終了となる。

 人間にとって幼少期から青年期までの12年間は一生のうち、ほんの一瞬のような時間かもしれない。歳月を重ねれば重ねるほど、人の記憶はアップデートされ、恐らくある一定の量を超えると記憶は、新しい情報を上書き保存せざるを得ない状況になる。この映画はまさにそういった人生の営みを表現したかったのではないだろうか。

 こうして、リンクレイターの特殊な撮影技法が登場人物それぞれの一瞬一瞬の積み重ねを表現し、物語を進め、厚みと広がりをもたせているのだ。

 

◇「日常に溢れるモーメント(瞬間)こそ人生」

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「You know how, everyone's always saying "seize some moments."

 I don't know why I'm kind of thinking it's the other way round.

 You know like "The moments seize us"」

ーどうしてみんな、いつも「一瞬を逃すな」と言うのかな?

 私はなぜだかそれを逆だと考えてしまうの。「一瞬が私たちを逃さない」って。

 

 メイソンはこの問いに対して、図らずも自ら彼なりの答えを出す。そのセリフこそ、リンクレイター自身が伝えたかった、表現したかったメッセージなのかもしれない。

 

 瞬間ごとに起きる出来事の積み重ねが自らを形成し、時間という束になって私たちに残酷に現実を突きつける。なんて事ない、平凡な人生に思えても、瞬間ごとに振り返る、もしくは感じる事ができれば何かが変わるのかもしれない。人生とはあっけなく、あっという間に過ぎるもの。時間には誰も逆らう事はできない。そういった普遍的なテーマを過度な演出なく、自然に表現した本作はまさに秀逸だと思った。

 

 一度見終わったらぜひもう一度見て欲しい。繰り返し観る事で瞬間ごとの出来事が物語において人々にどのような影響を及ぼしていたかを知る事ができる。

 

 日常に溢れるモーメント(瞬間)こそ人生なのだ、と感じる瞬間を味わって欲しい。明日が変わる作品の一つであることは間違いない。

 

映画『6才のボクが、大人になるまで。』予告編 - YouTube

 

 

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6才のボクが、大人になるまで。

6才のボクが、大人になるまで。