SHAME 愛なら、毎晩ティッシュに包んで捨てている。
2012年公開された「SHAME」。
NYに住む中流階級のセックス依存症の男ブランドン(マイケル・ファスベンダー)。仕事以外の時間は、ゆきずりのセックスを無意味に繰り返し、ただひたすらセックスに時間を費やすブランドン。
ある日突然、家に転がり込んできたのは妹のシシー(キャリー・マリガン)。シシーは他者の愛を異常なまでに求め、激情の塊のような女性。さらには自傷癖まである。
そんな正反対にいる兄妹はお互いに衝突し合い、傷つけ合う。彼らの過去にいったい何があったのか。ブランドンは、一体どんなシェイムを抱えているのか。
異常で歪な兄妹の関係性は、観ていてとてつもない違和感を感じさせる。そこに、この映画のすべての秘密が隠されているのかもしれない。
過激な性描写によるR18指定の問題などで、国内での上映館も少なく、内容的にも、「一緒に観に行こう」と誘えそうな人もいなかったので、DVDリリースを待ってやっと鑑賞。
映画の始まりから終わりまで、主演のマイケル・ファスベンダーほとんど裸じゃん。と突っ込みたくなるほどあっけらかんとフルヌード。妹役のキャリー・マリガンも出だしからいきなりフルヌード。出てくる人の9割は裸体さらけ出しちゃってる。笑
終始セックスをしているか、マスターべションに明け暮れる男の生活を見続けているのに、いやらしいとか、目を背けたくなる、とかなぜだかそういう感情にさせられない。
「脚本を読んで一番驚いたのはヌードの場面だった。撮影で裸になったことはなかったし、かなり徹底した描写だったけど、スティーヴの過去の作品を見ていたからリスクはないと感じたの。スティーヴはアーティストで、人体に敬意を表している。意味もなく性的な描写はしないし、不当に裸体を露出することは決してないわ。」
と主人公の妹役を演じたキャリー・マリガンが某インタビューに答えたように、監督自身の芸術家肌な感覚と、物語自体に秘められたメッセージを心のどこかで感じずにはいられないからなのか、それぞれの感性に訴える、説明的でない物語展開のおかげで、セクシャルなだけでない物語の本質がしっかり伝わってくる。
この映画を観終わってすぐの感想は「...........。」
無。
なんというか、面白かったし、シーンの一つ一つや、セリフの一字一句に伏線が、
物語を読み解く謎があるのかもしれない、と注意深く観るおかげで、
気づいたら物語の世界にどっぷりはまりこんでしまうのは間違い無いのだけれど、
でもやっぱり見終わった時には「...........。」としか反応ができない。
ラストのシーンを前に、頭の中を「(もしかして?)」という結末は過るんだけど、
でもできたらそうでない結末を望みたい。
最後の最後まで、物語の核心は語られないおかげで、しばらく「...........。」になるほかない。
シシーとの関係は?
彼らの過去にはいったい何があった?
愛する人とのセックスでは機能しなくなってしまう現実は変わらないの?
彼の、シシーの今後の人生は?
すべてについて全く語られることなく、物語はラストへ向かっていく。
監督は淡々とひたすらにブランドンが生きる世界の「現実」を描き続け、
観客はその「現実」を覗き続ける感覚。
見終わってすぐに、「どうにもならない現実」を前に、無力感に絶望する感覚が呼び起こされた。
外向きの自分と、本当の自分。
社会に生きる人々ならばもっているであろう二面性を、自分でコントロールしきれなくなる瞬間が訪れた時の歯痒さ。みたいな痛みをブランドンを通して感じる。
人はいつでもやっぱり、誰かと繋がっていたいもの。
他者との心のつながりを切に願うシシーと、体のつながりばかりを求めてしまうブランドン。複雑な家庭環境の中で寄り添うように育った二人にとって社会はとても厳しい環境だったのかもしれない。
「私たちは悪い人間じゃない。悪い場所にいただけよ。」
と泣きながらブランドンの留守電にメッセージを残したシシーの発言からもわかるように、きっと過去に二人の間には何かしらの関係があり、ブランドンはそれでも実妹であるシシーという女性を心底求めている自分を振り払うかのように無意味なセックスを繰り返しているのではないか、と感じた。
それでも無邪気に兄の愛を求めるシシーにやりきれない気持ちにさせられているブランドン。そういう思いで彼の言動、行動を見ていると辻褄が合う。
異常なまでに距離の近い兄妹。
シシーが体に触れることを嫌がるブランドン。
心のつながりと、体のつながり。
人間はこの2つがバランス良く存在できないと、どこかに歪がではじめる。
「2012年、最も完成度が高く、挑発的な超話題作!」
とコピーの通り『さぁ、あんたはどうなのよ?』とマイクを突きつけられたような。
強いて言うなれば、公式サイトの文章通り、
「セックスだけなのに、すべてがある」まさにそんな映画だった。
エンタメ映画、といった感じではないので、好き嫌いはかなりありそうですが、
思わず「...........。」となるような映画が好きな人ならかなりイケるくちかと。
個人的には、久々に見ごたえのある映画でございました。
気になる方はぜひ、予告編でも。